「現代文ができるようになりたい」という生徒にどうアドバイスをしたらいいのだろう。
「現代文の読み方」として、授業で生徒では何を伝えるべきなのだろう。
私はどちらかというと古典が得意なので、教員時代、ずっと悩んでいました。
若い先生の中には、私と同じような悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか?
でも、この『新釈現代文』を読みその一つの答えを見つけた気がしたのです。
私は、上の記事で『新釈現代文』を知りました。
記事中で、「『読む』という営みの神髄を垣間見られる古典的名著」という風に紹介がされており、『新釈現代文』に興味を持ちました。
すぐに買って、読んでみました。
びっくりしました。
私が今まで、ぼんやりと「読むってこういうことだよなぁ」と思っていたことが、論理的にまとめられて言語化されていたのです。
「これこそが、読むという態度の本質だ」と思い、生徒にもこれを伝えたいと強く感じました。
それまで私は
「こういう風に線を引きましょう」とか
「しかし、という言葉に○をしましょう。その後に大事なことが書かれています」とか
どちらかというと設問を解く際に使えるテクニック面を伝えていました。
実際、現在よく売れている参考書にもそのようなものが多い印象です。
でも、それってあくまでも小手先ですよね。
もちろん、テクニック面の指導も読解には有効です。
しかし、育てたいのは真の「読解力」を持つ生徒のはず。
今回紹介する『新釈現代文』には、小手先のテクニックのような話はほぼありません。
徹底的に「読解」が解説されています。
本書のやり方を、なるべく早い段階から積み重ねていけば、確実に読解力はじわじわと伸びていくはずです。
読解のための「たった一つのこと」
筆者は、入試現代文読解の態度として必要な「たった一つのこと」があると言います。
その「たった一つのこと」を筆者は一言で「追跡」と表現しています。
つまり、文章を一文一文、丁寧に読み論を追っていく。
それを経て、筆者の主張とその根拠を理解する。
たったそれだけのことを、丁寧に丁寧に論じていたのです。
おすすめポイント
構成の分かりやすさ
『新釈現代文』は、すべての章で説明⇒問題(大学入試過去問)⇒解説という構成となっています。
すべての説明が、実際の問題で例として示されています。
特に、「たった一つのこと」を説明している第三章では、本文解説にかなり多くの字数が割かれています。
本当に丁寧に、一文一文理解を積み上げていくのです。
設問の解説はオマケ程度。
筆者が、どれほど読むことを大事にしているかが、ここからも伝わります。
筆者が実際に「たった一つのこと」を実践する様子が読めるので、イメージをもちやすいです。
「たった一つのこと」以外にも知識が得られる
現代文頻出ジャンルの知識
『新釈現代文』では、全体で41題の大学入試過去問が掲載されており、
・哲学
・科学論
・芸術論
など、様々な入試頻出ジャンルの文章に触れることができます。
それぞれの文章について細かい解説があるので、文章の内容を理解していけば現代文頻出ジャンルの基礎知識がついていきます。
「近代精神」の解説
現代文を読む上での基礎知識として非常に重要になるのが
・人間主義(ヒューマニズム)
・合理主義
・人格主義
の3つです。
『新釈現代文』では、このような基礎知識についても、重要な知識として例題とともに詳しく説明がされています。
「読む」ことに必要な態度+必要な知識の両方をカバーしてくれる点で優れているなと思います。
問題を解く際のポイントもカバー
最後の章は「適用」となっていて、実際の問題に取り組む際のポイントも書かれています。
・何を聞かれているのかしっかりと把握すること
・「簡明に」「過不足なく」書くこと
・文字を綺麗に書くこと
など基本的なポイントが例題とともに説明されます。
読む~問題の解答まで読者を導くような構成です。
純粋に読み物として楽しい
実際の過去問に出題された文章なので、内容も示唆に富むものばかりです。
一つ一つの文章が興味深くて、筆者の解説もとても分かりやすいので、一つの読み物としても楽しかったです。
筆者が、受験生に向けて伝えている言葉も胸に響きます。
生徒自身が読むにもオススメ?
ここまで、内容を生徒に紹介したい、ということで書いてきましたが、
もちろん生徒自身にも読んで欲しいです。
ただ、クラス全員にというイメージよりも、特に
・国公立大を目指していて2次に国語が必要な生徒
・難関私大文系を目指す生徒
には積極的にすすめたいなと思います。
初版が1959年と古いこと、そして例題も実際の入試問題を採用しているので
おそらく、国語が苦手な生徒にはかなり難解なレベルだと思いますのでオススメはしません。
結局、「読む」しかない
「たった一つのこと」がどれだけ体得できたか。(中略)
『新釈現代文』p178
以下は、諸君が自らそれらを試みる素材なのです。以下の諸問題(中略)について、諸君が、根気強く「追跡」を続けられることをのぞみます。
『新釈現代文』には、説明が全て終わった後のページから入試の過去問が10題以上も掲載され、問題集のようになっています。
引用は、問題に入る前のページで筆者が述べていることです。
「読めるようになりたければ根気強く読め」という主旨のシンプルな主張に、私は強く共感しました。
ここまで書いてきて、『新釈現代文』で書かれていることはいずれも、とても当たり前のことばかりだと改めて感じました。
練習しないとピアノが上手くならないように、
シュート練習をしなければシュート率が上がらないように、
読解だって、結局、読むしかないのです。
考えてみれば当たり前のことです。
『新釈現代文』を読み、そのことを改めて突きつけられた感じでした。
以降、生徒にも「ちゃんと読む」ことの大切さを訴えるようになりました。
当たり前のことをどれだけ真摯にやっていくかが、あらゆることにおいて大切なんですね。
文字のうわべだけを追って、読んでいるつもりになっている生徒は多いと思います。
しっかり読むという態度を、早い段階から身につけさせられるようにしていきたいですね。